多言語での案内放送(日英中韓)が必須となったのは、コロナ前より外国人観光客数(インバウンド)が急増したことが背景にあります。
それまでは、自動放送(日英のみ)の機能が付いているのは、特急をはじめとする一部の車両のみ。それ以外の一般車両は、車掌自らの声で放送していました。業務効率化の観点からも、全ての車両に多言語対応した車内放送装置の導入が急務でした。
ご提案01
本プロジェクトの遂行において大事なことは、なるべくコストを抑え、なおかつ早期(2年間)で対応できる方法を検討することでした。しかし、全車両の一つひとつに自動放送装置の取り付けを行うと、費用は嵩み、工期もかかってしまうためそのどちらも解決はできません。 例えば、1編成2運転台に設置しようとすれば、約2週間程度は必要です。近鉄の全車両(近鉄車両:約560編成)に設置を考えると、6年程度は必要となります。
そこで、車両の改造を最小限に留めました。「外部音源接続箱の新設」のみとし、安価な工事費、早期の全車展開を実現したのです。
既存のマイクと放送アンプの間に、外部音源接続箱と多言語放送端末(タブレット)を接続するだけ。通常は放送装置の音声が客室に放送されますが、専用マイクのボタンを押すと車掌の肉声が車内に放送される仕組みです。
タブレットは取り外しが可能で、車掌が一人一台持ち歩けるというスタイルに。端末は車両の数でなく乗務員の数だけ用意すれば運用できるため、低コストで運用できます。
シンプルな工事のため2年間で全車両に導入でき、コスト面でも自動放送装置を導入するのと比べると1/2〜1/3程度に抑えられました。
ご提案02
タッチパネル式で、放送言語、乗換案内などをワンタッチで簡単に設定できるようにしました。
実際に放送装置を使うのは車掌の皆様。入念なヒアリングを何度も重ねて、実際に現場レベルでしかわからないことを汲み取っていきました。
揺れる電車の中での操作のため、「うまくタッチできるか。違うボタンをうっかり押してしまわないか」などの不安も。細部にわたりご意見を取り入れることで解消を図りました。タブレットやボタンのサイズ、ボタンの色、デザインレイアウトに至るまで──直接的にお話を伺うことで、その一つひとつを形にしていきました。
状況に応じて臨機応変な操作が簡単にできるようにも配慮しました。
例えば、基本的には、ボタンを押したら定型の文章が流れていくのが普通です。しかし、次の駅で左右のどちらの扉が開くのかはダイヤによって異なる時があるので、一つの定型の放送ではカバーしきれません。
そこで手動で〈左に開く〉〈右に開く〉という再生ボタンを追加するなど調整を図りました。
このように、ヒアリングの内容を踏まえ、お客様の事情によって細かなカスタマイズを実現していくのが私たちの仕事です。
ご提案03
電車の運行には、時期によりダイヤ変更や運用系統変更などが生じてきます。そのため、放送の内容も変更しないといけません。しかし、その度に修正を外部に依頼していては、ランニングコストが嵩みますし、時間と手間もかかってしまいます。
そこで、多言語放送端末を車掌携帯方式に。また、列車区事務所に放送データ登録装置を納入し、ユーザー側で自由に編集できるようにしました。車掌ごとに端末を持ち歩けるようにしたのは前述の通りですが、その端末を各事務所に持ち帰り、編集ソフトでデータの書き換えができるようにしたのです。操作方法も簡単なため、専門知識も要りません。
そのためリリース後は、ユーザー様ご自身でほとんどのことを編集でき、費用を抑えながら運用することができるのです。
この車内放送装置は、国土交通省主催の第15回「日本鉄道賞」の特別賞を受賞しました。
工事の規模を最低限で抑え、短期間(2年間)、低コストで実現したことを評価されての受賞でした。
市販のタブレットを用いて、専用のアプリを導入する──仕組みとしては、シンプルなもので大それたことではありません。短納期、低コストという条件の中で、私たちにできることを考えた結果、画期的なアイデアにつながりました。
当社はこのように、ユーザー様が抱く〈あったらいいな〉という細かな要望を柔軟に考え、そのお悩みを解決することに喜びを見出しています。